あらすじと簡単な感想 伊豆の海の美しさと、それを感じる素直な心
今回紹介するのは、吉本ばななさんの小説「海のふた」です。
価格:704円 |
ふるさと西伊豆の小さな町は、海も山も人も寂れてしまっていた。実家に帰った私は、ささやかな夢と故郷への想いを胸に、大好きなかき氷の店を始めることにした。大切な人を亡くしたばかりのはじめちゃんと一緒に…。自分らしく生きる道を探す女の子たちの夏。版画家・名嘉睦稔の挿絵26点を収録。
ベースは主人公まりと主人公の家へひと夏の間だけやって来るはじめちゃんという、二人の女の子のお話です。
主人公は西伊豆の寂れかけた観光地である故郷の町をとても愛しています。生来の「かき氷好き」が高じて、大学卒業後、故郷の浜近くで「かき氷屋」を細々とやっています。
西伊豆の海の宇宙のような豊かさや美しさ、そして不思議さ。驚異的な自然を前にしたときに人が感じるありのままの気持ち。そういったものが素直な言葉で書いてあります。やはり吉本ばななさんの本は対自然の描写が自然体で素敵です。
伊豆が舞台だからか、「TUGUMI」とちょっと読感が似ていました。そして伊豆の自然は私も大好きなので、かなり楽しく読みました。
読んでいる間は、主人公たちの暮らしぶりや言っていることがさすがに綺麗すぎるんじゃないか、おとぎ話みたいに出来過ぎているんじゃないかと感じることもありました。
が、読み通してみると、彼女たちはこんな風にありのままに純粋で、これでいいんじゃないか、と受け入れられた気がします。ストレートに心が綺麗で美しい女性二人の、ひと夏の日常を描いたお話なんだな、と。二人の心はそれこそ伊豆の海のように透明で真っすぐで明るいです。
あまりにも純粋で綺麗な在り方にちょっと引っかかってしまうのは、自分が社会の中で生きていて心が疲れているからだよね・・・とも思ったり。
綺麗なお話、自然についての描写が読みたい人におすすめです。
日本の自然について
主人公が作中でたびたび言っている、町が開発される前(恐らく80年代、70年代以前?)の伊豆の海中は本当に驚異的な世界だったんだろうなと、そこも印象に残りました。
日本各地がそうかもしれないけれど、もっと前の高度経済成長期以前まで戻ると、21世紀の現在とは自然の様子が比べ物にならないぐらい豊かだったのだろうと思います。
見たこともない日本の自然がなぜか恋しくなるような気持になりました。
関連するおすすめ作品
同じくよしもとばななさんの作品「TUGUMI」も伊豆をモデルにしたといわれる海辺の町が舞台で、二人の女の子のお話です。
価格:660円 |
病弱で生意気な美少女つぐみ。彼女と育った海辺の小さな町へ帰省した夏、まだ淡い夜のはじまりに、つぐみと私は、ふるさとの最後のひと夏をともにする少年に出会ったー。少女から大人へと移りゆく季節の、二度とかえらないきらめきを描く、切なく透明な物語。第2回山本周五郎賞受賞。
昔から何度も読み、思い入れが強すぎて上手く紹介できない本でもあります。