青春小説好きには刺さる 国語の授業で読む小説
大人が読んでも面白い青春小説。今回紹介するのは、1990年に発表された山田詠美さん作の短編小説「ひよこの眼」です。
世代によるでしょうが教科書にも載っている作品なので、かなりの知名度だと思います。
私も高校生の頃に読みました。私の使っていた教科書には載っていませんでしたが、国語の先生がプリントして授業に持ってきてくれました。
「授業」というもので習っているうちはそんなに関心を持てないんだけど、数年後に思い出して読み返したくなる。そんな国語で習う文学作品はいくつかあります。
同じく国語の教科書に載っている忘れられない話といえば、ネットでも人気の「山月記」があります。あれは強烈だよね・・・。
森絵都さんの「つきのふね」や「カラフル」と同じく、10代の頃に心に強く響いた作品です。この2冊の世界観が好きな方は、おそらく「ひよこの眼」も好ましく読めるのではないかと思います。
どこまでも純粋で透明 ゆえに切ない思春期の物語 森絵都さんの傑作青春小説
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私は13歳でこの本に出会い、その後決定的に本好き人生を歩むようになりました。「あたしはちゃんとした大人になれるのかな」が全てを説明していると思う一冊。
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一度は死んだものの、抽選に当たり「やり直しホームステイ」ができるようになった「ぼく」の物語。森絵都さんの代表作で、アニメ映画化もされた有名作品。海外でも評価が高いようです。
ひよこの眼はありがたいことに、ネットで全文が無料公開されています。教科書に全編載るような短編小説なので、すぐに読めます。(リンク載せていいか分からないので、気になる方は検索してみてください)
あらすじと読んだ後の感想。(!ネタバレがあります!)
主人公の亜紀は中学三年生。亜紀のクラスに、季節外れの転校生・幹生がやってくる。
亜紀はなぜか幹生の眼が気になる。幹生の眼を見ると、霧のように胸を覆う謎の感情。でもそれは好意でも恋でもないことははっきりしている。その感情が何なのか、分からなくてどうしても解き明かしたいと思う亜紀。
亜紀は暇さえあれば幹生をじっと見つめるようになる。その様子をクラスメイトに噂されても、からかわれても、亜紀は幹生を見つめることをやめられない。
というのがあらすじです。
さらにネタバレ感想 三四郎の「かわいそうってことは惚れたってこと」に通ずるもの
「懐かしさ」のような謎の感情を解き明かしたいという強烈な興味。その一心で見つめていたのが、途中からは明確に恋心へ変わっていきます。
中学三年生の微妙に子どもで微妙に大人な心理を、ぐっと捉えて無駄なく表現している文章が魅力的です。
――私は、そ の時、すでに、好きな男には、のんきな幸せを授けたいと願うほどに大人になっていた。
――「好きだから。心配だから。」
――公園には、何組かの恋人たちがいたが、私は、自分と幹生がいちばん、せつな いと思った。(本文より)
夏目漱石の「三四郎」では、「(その人のことを)かわいそうって(思うって)ことは惚れたってことだ」って言ってますよね。原文は
「かあいそうだたほれたってことよ」
です。
イギリスの女性作家アフラ・ベーンが書いた小説に「オルノーコ」という作品があります。この本のエピソードを、アイルランドの劇作家トーマス・サザーンが戯曲化。その脚本のなかに出てくる言葉が「Pity is akin to love(哀れみは恋の始まり)」です。これが「三四郎」内では、登場人物が「この句をちょっと日本語に訳してみました」と言って、「かあいそうだた・・・」という言葉が登場します。
辞書を見る限り、この句は英語圏ではことわざ的な立ち位置でもあるのかな?
憐れみは恋と紙一重、という訳もあるようです。
「ひよこの眼」では、恐ろしさゆえに恋してしまったと亜紀は言っています。
恐怖と恋は紙一重。ある人の死の気配に強烈に心を捉えられて、恋をしてしまうぐらいその人の生命に引き寄せられたということでしょうか。
生と死は一体であるし、亜紀は幹生に幸せに生きてほしいと心底望んでいます。死を見つめながらもどこかでは生きようもがく幹生の生に、亜紀だけが気づいて引き寄せられたといえるかもしれません。
夏目漱石について 多分、現代青春小説の祖
ちなみに、夏目漱石の「三四郎」は、1970年代に高校生だった母が高校の授業で読んだ作品だと言っていました。「「かわいそうってことは惚れたってこと」というのは、つまりどういうことか」を議論する国語の授業だったとか。
私が高校で習ったのは「こころ」で、三四郎は大人になるまで読んだことがありませんでした。年代や、使っていた教科書によるのかな?正直、夏目漱石はあまり得意な作家ではないのですが、なんだかやはり「日本の青春」の香りがする作家だと思います。
日本人ほとんどが、学校教育を通して思春期に夏目漱石に出会うことになるからでしょうか。
「こころ」も個人的に全然好きじゃないのに、
精神的に向上心のないものは、馬鹿だ
のセリフは脳に刻みついています。
K(私)が・・・脳に語りかけてくる・・・!ってなるのは、おそらく私だけではないはず。
自分は夏目漱石が好きなのか好きじゃないのか、定期的に確認したくなる
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まとめ 読むと中三の秋にトリップする作品
ひよこの眼も、高校の教室にいた時は「国語の授業の文」として出会ったので「読まされてる」感が強くて、嫌になりながらぼうっと読んでいました。
それでもなんとなく読みながらも、後半の亜紀の心情として書かれている文章には隅から隅まで余すことなく感情移入できて、そのことに驚いた記憶があります。
しかも、心のどこかに残って後でじわじわ効いてくる。
大人になってからも、数年おきに読みたくなって読み返します。そして読むと中三の秋のような、無性に切ない季節にトリップする感のある作品です。